9月の定例会まとめ/ニュースの目(28)『予算の時期』が始まる
石川直子です。
今回から3回にわたり、『国家予算』について勉強します。とかく「国家予算について知ったからって、だから何なの?」と思われがちですが、そうではなく、「だから家計はどう行動すればよいのか」を考えることが重要であり、私たち講師はそこをお話しなければなりません。
私が講師を担当する稲城のママグループ「笑ライフ」勉強会では今年度『家計における資産運用』をテーマに勉強していますが、『国家予算』から浮かび上がる将来のさまざまな問題、例えば、年金の受給年齢のさらなる引き上げや医療・介護費用負担増、増税などへの対策と併せて、子育て世代がいかに効率的に生活資源の増加をはかっていくのか。不安定な将来を予測するならば、ここしばらくの家計の国債投資は控えざるを得ないが、かといってリスクの高い投資はなお控えたいし、銀行での流動性確保も得策とは云えず、MMFなどで流動性確保か、などなど頭の中を考えがぐるぐる廻ります。
しかし、いずれにしろ、家計の基本的考え方=ライフ・ファイナンシャル・プランニングが個々の家計の土台となるのだということ。そこをしっかりお伝えすることが大事なんだとあらためて思った次第です。
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『ニュースの目(28)』-日本経済新聞8月12日~9月12日朝・夕刊より抜粋-
『予算の時期』が始まる
1)『概算要求総額』は99.2兆円、『優先課題推進枠』は3.5兆円(8/30)
2)『中期財政計画』も提示(8/7夕)
- 目標は15年度までに国・地方の『基礎的収支』の赤字半減
- 新規国債発行額は43兆円以下に抑える
- 『年金』を含め、痛み伴う改革は先送り(8/3)
3)『増税』判断は10月初め
- G20(8/6)でも消費増税言及せず
4)社会保障給付は先行して削減へ
- 特養入居基準厳しく-「要介護3」以上に(8/14)
- 大病院、初診料1万円を基準に値上げ検討(8/30)
- 『高額療養費』見直し 所得に応じ負担増徹底(9/10)
- 高所得者の介護保険の自己負担を15年度から見直しへ(8/4)
5)15年度の『財政健全化目標』達成には5兆円の増税必要(6/22)
- 『消費増税』でも20年年度の黒字困難(8/1夕)
6)『大機小機』:『財政敗戦』を避けるために(9/7)
- 成長促進は重要だが、『増税』と厳しい『歳出抑制』というパーツもなければ『財政敗戦』は避けられない。
- 『財政再建』が必要なのは、行き詰った時に真っ先に被害を受けるのは『国民』だからだ。
トピックス
『国家財政』ABC-基礎編ー
1)『財政』とは
- 政府の経済活動の収支。租税や公債などで民間から資金を調達、政府はこれを元手に国民生活の基盤となる諸条件の活動を行なっている。
(注)1970年代から「大きな政府」に対する疑問が生まれ、「小さな政府」を目指す
動きが現れ出した。
2)『財政』の三機能
①資産配分機能 ②所得再配分機能 ③経済の安定化機能
(注)『財政』は以下の二つを通して経済を安定化することができると言われている。
a)自動安定化機能(ビルト・イン・スタビライザー)
b)裁量的財政政策(フィスカル・ポリシー)
・・・不況期に「財政支出」を拡大したり、「減税」で景気を刺激する
3)『財政学』の歴史
①『官房学』・・・17~18世紀の『重商主義時代』に王室財政の収入増と管理のための技術論
②古典派財政学・・・『古典派経済学(自由な経済活動を主張)』の発展と共に「国家の機能」
を以下の3つに限定すべきとした。
③19世紀半頃から・・・『所得格差』の拡大と共に、『福祉国家』への要請が高まり、
『財政』の役割も拡大
④現代・・・R.A.マスグレイブの『財政理論』(1959年)で、一応の総括を見たと言われ、
数理的・統計的手法が導入され理論の精緻化が進んだ。
4)『財政赤字』の問題点
①財政の硬直化・・・「利払い」等の増大で、「政策的経費」を減少させる
②財政の「持続可能性(サスティナビリティ)」に対する信任の喪失
③「負担」の先送りによる世代間の不公平の拡大
5)『租税』
①『租税』とは
- 政府が『歳入の調達』を目標に、強制的に、何ら特別の対価なしに、他の経済主体から徴収する「貨幣」
②『租税』の種類
a)『直接税』と『間接税』
(注)『直接税』・・・法律上の「納税義務者」が税の負担者となる税
b)『従量税』と『従価税』
c)『国税』と『地方税』
(注)『租税』の性質
『直接税』・・・累進課税が可能(垂直的公平)だが、脱税や所得隠し、
景気に左右される、などの欠点がある
『間接税』・・・公平で景気に左右されないが、『逆進性』の欠点がある
③『租税負担率』と『国民負担率』
『租税負担率』・・・『国民所得』に対する『国税』と『地方税』を合わせた『租税収入』の割合
『国民負担率』・・・『租税負担率』に『社会保障負担率』を加えたもの
『潜在的国民負担率』・・・『国民負担率』+『財政赤字分』
<参考>財務省ホームページより
6)『財政健全化』への努力
- 橋本内閣(1996~1998年)
『財政構造改革法』・・・急激な景気変動と金融システムの不安で凍結
- 小泉内閣(2001~2006年)
『聖域なき構造改革』・・・歳出削減は進んだが、「社会保障費」が急増、
改革は捗々しくなかった。
2006年『経済財政運営と構造改革に関する基本方針』を閣議決定
・・・持続可能な財政制度を確立するため、「歳出削減」を徹底した上で、
それでも対応できない場合は「歳入改革」で対応しようとした
『歳出・歳入一体改革」が取り決められた。
- 2009年・・・「歳出改革」の取り組みを継続すると同時に、国地方の大胆な「行政改革」
を進めることになった。
- 2010年
『財政運営戦略』を閣議決定、以下の目標が決定された
①国・地方の「プライマリーバランス赤字」を遅くても2015年度までに
「対GDP比」で半減、2020年度までに黒字化させる。
②2021年度以降において、国・地方の「公債残高」を「対GDP比」で
安定的に低下させる。
③2011年度から13年度を対象とする以下の目標の『中期財政フレーム』を策定、
イ)2011年度予算で新規国債発行は約44兆円を上回らないものとする
ロ)「基礎的財政収支対象経費」を71兆円以下に、「国債発行額」を
約44兆円以下に抑える
- 2013年8月・・・『中期財政計画』を策定
『中期財政計画』のポイント
①2015年度の財政赤字半減目標を維持
②新規国債発行額は14、15年度に前年度を上回らないよう努力
③地方の一般財源総額は14、15年度に13年度と同水準を確保
④20年度の財政赤字解消は税収増などで実現
⑤経済の重大な危機で目標達成が難しい場合は、機動的な財政政策を実施
7)『消費税』の歴史
a)歴史
1989年・・・『消費型付加価値税』として3%の『消費税』を導入、代わりに『物品税』
は廃止
野党四会派『消費税廃止法案』を提出
1990年・・・政府『消費税見直し法案』を提出(2月)
野党、『消費税廃止法案』提出(4月)
1991年・・・与野党の合意成立
1997年・・・税率を5%に引き上げ
b)「消費税」が必要とされた背景
イ)国民所得が上昇、『シャウプ税制(直接税中心で累進度がきつい)』が合わなく
なった。
ロ)「少子高齢化社会」の到来をひかえ、『社会保障』を賄う安定的な「歳入構造」が
必要と考えられた。
ハ)これまでの『消費課税』は奢侈性・便益性に着目、「個別間接税」の『物品税』で
あり、色々なアンバランスがあった。
c)当時、国会で議論されたこと
・「逆進性」、「低所得者」の負担
・事業者が、消費者に『消費税』の転嫁ができるか
・事業者の事務負担
・「便乗値上げ」が生じないか
・「景気」への影響
以上
8月の定例会まとめ/ニュースの目(27)アメリカの『出口戦略』にゆらぐ新興国経済
石川直子です。
「一つの記事だけ読んでもわからない。前後の関連記事を合わせて読まないことには、何を云われているのか理解できない」
猛暑のせいでぼんやりした頭に先生の声が響く中、ぼんやりとしか伝わってこない『出口戦略』と『家計』との関係について、頭を冷やして考えました。
トピックスで取り上げた『人間の合理性』は、経済事象のみならず、例えば仕事や恋愛、親子関係など、私たちの生活の様々なシーンにおいて「あるある」なテーマ。ついつい脱線しつつも、興味深く学びました。
★
『ニュースの目(27)』-日本経済新聞7月9日~7月30日朝・夕刊より抜粋-
◆アメリカの『出口戦略』にゆらぐ新興国経済
1)バーナンキ、『QE3』の縮小(出口戦略)に言及(5/22)
-
6月19日、議会証言で、今後半年間にQE3の縮小をスタート、来年半ばに失業率が7.0%に低下することを前提にQE3を終了する。
-
7月10日、“予見し得る将来にわたって、米経済には極めて緩和的な金融政策が必要”と発言。
2)世界の『過剰流動性』は急増
<参考>アメリカのディスカウント・レート
2007年 4.25%
2008年以降 0 ~0.25%
- 特に、新興国はドルに対する自国通貨の対ドルレートを維持するため『債券』を発行し、自国通貨売りドル買いを積極的に行なった。
3)バーナンキの発言は、特に新興国からの資金引揚げを引き起こし、金融・経済に大きな影響を及ぼした。
4)7月10日のバーナンキ発言及びG20(7/19,20)以来、混乱は一応落ち着いているが…
5)日本の『出口戦略』は世界一困難か?
- 日銀の買い入れの中心は『国債』に偏っており、日銀のバランスシートに占める国債の比率は2014年末で7.5%=約35.7兆円(13年末でFed4%強、BOE6%弱)となる。
- 売りオペによる損失規模は最悪となる公算がある。
6)トピックス
行動経済学にみる人間の『合理性』
1. 経済学と『合理性』
◆伝統的経済学
・ 人間を『完全に合理的』であるとする(完全合理性=『ホモエコノミクス』を仮定)
・ 人間の「合理性」は限定的で、その「認知能力」には限界がある(=『限定合理性』)のみならず、計算能力にも限界があり、最も高い『効用』を与えてくれる選択肢を探すという『最大化』も成り立たず、これで十分だと『満足のいく選択肢』を探す(=『満足化』)のが精一杯である。
<参考>①伝統的経済学では、a)与えられた『選択肢』の集合を定義
b)それぞれの『選択肢』の「発生確率」と
「効用=結果」を想定
c)最も「効用」が高い『選択肢』を選択する
②『限定合理性』を一つの学問体系に完成させたのが、アメリカの「万能学者」ハーバート・サイモン(主著は1957年の『合理的選択の行動主義的モデル』)
2. 『限定合理性』の考え方
a) 『選択肢』はあらかじめ定まっており、外から与えられるものではなく、自分で発見するもの。
b) 『選択肢』と『結果』の関係は一義的・固定的ではなく、本人の努力次第では『確率』を高めることができる。
c) 『確率的期待値』が低くても、最善の状態を目指して『夢』を選ぶような人間もいる。
d) 人間は『結果』にのみ生きるものではなく、『過程』も重要である。
3. 『ヒューリスティックス』の考え方
・ 『選択肢』の発見には「時間」と「費用」がかかる。そこで人間は『最適』でなっくとも『満足できる選択肢』を簡便に選んでしまう(⇒『ヒューリスティックス』と呼ぶ)。日本語では『近道』、『目の子算』、『親指の法則』などと訳されている。
・ 『ヒューリスティックス』は、以下の3つが代表的なものである。
① 『代表的ヒューリスティックス』
判断するのに「倫理」や「確率」に従わず、どのくらい『典型的』かなどで選んでしまう。
② 『想起しやすさヒューリスティックス』
心に思い浮かびやすい『事象』に過大な評価を与える。
③ 『係留(アンカー)ヒューリスティックス』
『初期情報』に依存し、出発点から目標点の間を十分に調整できない。
<参考>
●人間は誤りを犯したくて犯しているのではない。誤りを最小限にするには、時間も費用もかかるプロセスが存在する。それでも、誤りをゼロにすることはできない。創造的な設計をするには「多くの失敗」が必要である。
4. 『合理的選択』を難しくする『時間上の選択』
・ 『時間上の選択』とは、“今の1万円と、1年後の1万円のどちらを選ぶか?”といった選択で、古来から経済学者ばかりでなく、哲学者、物理学者の頭を悩ませてきた。
・ 最初に『時間上の選択』を論じたのは、スコットランドのジョン・レー(1796- 1872)で、資本の蓄積は以下の心理的要因で決まる、とした。
① 子孫に「資産」を残す
② 長期的視点から未来を見越した『自制心』
③ 寿命の不確実性
④ いますぐ「消費」することの『切迫度』
・ 20世紀初頭になって、アメリカの万能経済学者アーヴィング・フィッシャーが『フィッシャーの無差別曲線』を発表した。
▶『無差別曲線』
現在と将来の『消費の効用』が等しい曲線
▶(1+r)
『割引率』と呼ばれ、『利子』と同じである。ただし、『割引率』の考え、計算方法には多くの議論があり、統一的なものは現時点では無い。
<参考>
『割引率』が小さいと、『現在消費』が多くなる。
<参考>
●『フレーミング効果』
人間の合理性は限定的であり、どの『選択肢』を選ぶかは『選択肢』の与えられ方による。
●『プロスペクト理論』の『価値関数』
以上
8月の定例会予定
6月の定例会まとめ/経済学史のABC②
経済学史のABC
3)主要経済学者の思想と理論
●アダム・スミス(1723~1790年)
・イギリスの経済学者で『古典派経済学(自由主義経済学)』の創始者。
・主著は『道徳感情論』(1759年)、『諸国民の富(国富論)』(1776年)
・主著の概要
『国富論』・・・人々の生活が豊かになるためには、まず『国』を富ませることが先決。そのためには政府による『市場』への規制を緩和・廃止することにより、一国の経済効率を向上させ、高い成長率を実現することで、豊かで強い国を作ることができる。また、『労働価値説』を主張した。
『道徳感情論』…社会秩序を基礎づけるのは人間の『同感』で、「行為者」は
a)適切で「行為」を受け入れる人の自然の感情が『感謝』である場合、その「行為」は報奨に値する。
b)a)以外の「行為」は処罰に値する。
・『競争』の起源について
人間は、他人の『悲哀』に対してより『歓喜』に対して『同感』することを好む。
『富』は見る者に歓喜を、『貧困』は悲哀を与えるので、人々は他人から『同感』されるため、『富』を求め、『貧困』を避けようとする。
・<一口話題>『見えざる手』
『国富論』では一回しか使われていない。『利己心』に基づく個人の経済活動を、社会全体の経済利益につなげる「自動調整メカニズム」がある、と考えた。しかし、個人の『利己心』を重視したわけではなく、『道徳感情論』では社会の『同感』が得られる『利己心』を求めた。慎重さと謙虚さおよび公平さをもって自国の経済運営に臨まなくてはならない、とした。
・イギリスの経済学者。人口論とともに貧困問題にも取り組んだ。
・主著は『人口論』(1798年)
・主著の概要
『人口論』・・・制限するものが無い場合、人口の増加率は食糧生産の増加率を上回るが、現実の人口は食糧生産で維持可能な範囲内に抑えられる。これは『人口抑制』が行われるからだが、それにはa)悪徳的手段(結婚の延期・回避、病気、事故等)とb)道徳的手段(悪徳を伴わない結婚の延期・回避等)がある。『食糧問題』を解決するには『救貧法』の廃止、庶民教育の確立、労働者のある程度の政治参加が必要、とした。また、不況時には公共事業への失業者の雇用等は短期的な解決策として有効である、と主張した。⇒ケインズの『有効需要説』の先駆者ともいわれる。
・<一口話題>『ウサギとカメのたとえ』
人口は制限されないと『等比級数(増加率が一定)』的に増加するのに、食糧生産は『等差級数(増加量が一定)』的にしか増えないので、『貧困の拡大』は不可避になる。これを、『人口』をウサギ、『食糧生産』をカメに例えた教材もある。
●D.リカード(1772~1823年)
・イギリス『古典派経済学』の完成者。
・主著は『経済学および課税の原理』(1817年)
・主著の概要
『経済学~』…『労働価値説』を基本に、生産された『価値』が三階級(資本家、地主、労働者)にどのように『分配』されるかを論じた。
そのポイントの一つが『差額地代説』。この説は、資本と人口の増加に伴い、穀物需要は増加。この需要を満たすために生産性の低い「劣等耕作地」まで耕作。その結果、「穀物価格」は高騰、「労働価値」も騰貴し、「地代」は増加するが「利潤率」は低下。したがって、「穀物輸入」が自由化されないと「資本」の蓄積は終焉する。
各国は自国で得意な産業を専門化して『輸出』し、不得意な産業の商品を輸入する。そうすれば、世界全体の経済水準が上がり、双方の利益にかなうことになる。⇒『比較生産費論』
・リカードは、経済政策として「穀物法の廃止」、「救貧法の漸次的撤廃」、「蓄積を妨げない課税制度の採用」、「国立銀行による銀行券発券ルールの確立」、「公社債の減少」を主張した。
・<一口話題>
彼は『穀物法』に反対、「穀物」についても『自由貿易』を主張して、マルサスと激しい論争を展開した。
●K.マルクス(1818~1883年)
・ドイツの経済学者。エンゲルスと盟友。
・主著は『資本論三巻』(1867~1894年)、『共産党宣言』(1848年)
・主著の概要
『資本論』・・・『労働価値説』と『余剰価値説』を基本に、『資本主義』を批判した。
そのポイントは、『資本主義』の発展は搾取によって『労働者階級』を貧困化させる一方、『資本家』は「蓄積」と「集中」を通じて『余剰』を増大させていく。こうした『資本主義の矛盾』は次第に激化し、結局『資本主義』は崩壊し、『社会主義』に移行していく。
・<参考>『余剰価値説』
『価値』と『価格』を区分、『価格』は需給関係によって変動する。一方、『価値』は『労働価値説』を基本にしており、『価値』と『価格』は常には一致しない。
しかし、必要なモノを必要なだけ生産していたら『余剰価値』は生まれず、経済的な不平等も発生しないが、現実には必要以上のモノが生産される結果『余剰価値』が発生、『余剰価値』を搾取する『資本家』と搾取される『労働者』という「二大階級」が発生することになる。
この社会では土台(「下部構造」)をなすのは『生産関係』であり、その上に法律、社会、学問、芸術などの「上部構造」がある。「上部構造」は「下部構造」に規定され、「下部構造」が変化すると「上部構造」も変化する。これが『革命』である。
「下部構造」は今後も変化するのは必然であり、したがって『資本主義』から『社会主義』への移行も必然である。
●J.S.ミル(1806~1873年)
・イギリスの経済学者で哲学者
・主著は『経済学原理』(1848年)
・主著の概要
『経済学原理』…人間は『生産の法則』を変えることはできないが、『分配』は人間の意思で変えられると考え、『公平な分配』の実現について論じた。
リカードは、『生産』と『分配』は一体不可分と考えていたが、ミルは『分配法則』は人為的に左右されると主張した。
ミルのユニークさは、『競争の欠如』は物質面の退化だけでなく、「人間の生来の怠慢」、「内向的性格」、「先例に囚われる傾向」を助長し、精神面の退化をもたらすことも強調した。
また、『自由論』(1859年)を著し、他人の『自由』を尊重し、自らの『個性』を鍛えることを『個人』に求め、『個人』の真の『多様性』の中に社会の進歩を見ようとした。
・<一口話題>『功利論』
イギリスの思想家ベンサム(1748~1832年)が提唱した思想で、「道徳」や「法」が正しいかどうかの基準は、それが「快楽」を増し、「苦痛』」減少させるかどうかによる、とした。 ⇒『最大多数の最大幸福』
●A.マーシャル(1842~1924年)
・イギリスの経済学者で『新古典派経済』の創始者。
・主著は『経済学原理』(1890年)
・主著の概要
『経済学原理』…『価格』と『取引量』は、『需要曲線』と『供給曲線』の交点で決まる、とする『市場的均衡の理論』を進化・発展させた。
また、『生産(供給)の調整時間』は『一時』、『短期』、『長期』、『超長期』の区分が必要だとした。
主著は、第二次産業革命の大不況期(1873~1896年)に出版されたもので、『市場は良いものだ』という認識が再考されていた。マーシャルは、『良い取引』とは自分だけ潤うのではなく、取引相手も同じく潤してくれるもの、とした。
⇒望ましい『市場』は『利他的な市場』
・<一口話題>『公正性の基準』の『価格』
・A.スミス・・・『自然価格(売り手が販売しても良いと思える最低価格)』
・A.マーシャル…スミスの理論を発展させ『正常価格(取引に実際に従事する「売り手」と「買い 手」が個々に決めるものではなく、両者の交渉によって決まる価格)』とし、 『独占』は『公正』ではない、と主張した。
●J.M.ケインズ(1883~1946年)
・イギリスの経済学者かつ実務家(財務省の官僚)
・主著は『貨幣論』(1930年)、『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年)
・主著の概要
『一般理論』・・・『失業』の原因は『有効需要(実際の支出を伴う需要)』の不足にあり、『完全雇用(働きたい者が全員雇用されている状態)』を実現するには、政府が『公共投資』をして、『有効需要』を創出する必要がある。⇒『古典派経済学』に対する批判
また、『自由放任主義』をも批判し、本質的に不安定な『資本主義』は『政府』が適切に管理することを主張。その手段としてa)『有効需要』の管理、b)『不況期の財政拡張』を主張した。⇒『大きな政府』
ただし、これらの管理は一国レベルではなく国際レベルのものが必要で、そのため『国際機関』の設立を提唱した。⇒『ブレトン・ウッズ会議』
・二度の世界大戦で、『自由貿易論』に対して、以下のような点に懸念を持たれるようになった。
・極端な経済変動に人間は耐えられない。
・極端な『自由放任』で経済が激変すれば、やがて極端な『保護主義』が生まれ、『帝国主義』につながってくる。
↓↓
アメリカ主導の極端な『金融自由化』でこの懸念が生じている
<参考>アメリカの代表的な『ケインジアン』
ポール.A.サミュエルソン、ジョン・K.ガルブレイス
ハイマン.A.ミンスキー等
1919年に「財務省」を離れてからは、正式な公職につくことはなく、『投資や投機』を続け、一時はかなりの損失を出していたが、1946年に亡くなった時は20億円ほどの資産を保有していたといわれる。その大部分が『投資や投機』によるものだ、といわれている。
●M.フリードマン(1912~2006年)
・アメリカの経済学者。『新自由主義』、『マネタリズム』のリーダー。
・主著は『資本主義と自由』(1962年)、『選択の自由』(1980年)
・主著の概要
『資本主義と自由』…『市場経済』における自由な経済活動の重要性を強調、『小さな政府』の復活を主張、ケインズの『大きな政府』と対立した。1970年代に『ケインズ経済学』が『スタグフレーション』の対策に行き詰まり、注目された。
二つの大戦後の恐慌は、生産や貿易など『非貨幣的』な変化が主因ではなく、『貨幣的な要因』が中心的役割を果たしている、とした。⇒『マネタリズム』の発想
・彼の主張は、『政府』には今後、成長する分野の目利きをする『能力』など期待できない。『規制改革』や『法人税減税』など、民間の自由な経済を促すことこそが『成長戦略』である。また、一般に良いと思われている『公的年金制度』、『公営住宅』、『公営有料道路』、『農産物の買取保証制度』などにも批判的で、政府が『正義と平等』を求めることにも疑義をもった。これは『政府の過剰な介入』が結果的に政策目標の実現を阻む皮肉な結果につながることを危険視したからである。
フリードマンはユダヤ系移民の子で、小さい時から『お金』には苦労した。父には定職がなく、「仲買人」などをしており、投機にも手を染めたが儲けたためしはない、といわれる。
彼も、1965年にポンドの空売りをしようとしたが、シカゴ市内の銀行に拒否され憤慨した、というエピソードが語られている。
以上
6月の定例会まとめ/経済学史のABC①
経済学史のABC (K.Okuda)
科学的経済学者は分析技術として『歴史』・『統計』・『理論』・『社会学』の4つを備えていなければならないが、このうちでも『経済史』がとりわけ重要である。 シュンペーター「経済分析の歴史」より |
1)経済(イギリスを中心に)年表
民衆の自由・民主化要求が活発に |
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1215年 |
マグナ・カルタ制定(都市の自治権拡大) |
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1265 |
イギリス議会の始まり(1343年には二院制度となる) |
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1381 |
ワット・タイラーの乱(独立自由農民によるイギリス農民の一揆) |
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1400年代 |
「囲い込み運動」始まる(1607年「囲い込み」反対の暴動) |
毛織物工業の発達 |
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1577年 |
ドレークの世界周航 |
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1600 |
東インド会社設立 |
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1765 |
ワット「蒸気機関」改良 |
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1769 |
アークライト「水力紡績機」発明 |
イギリス産業革命、古典経済学の時代 |
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1776年 |
アダム・スミス『諸国民の富』 |
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1789 |
「フランス革命」始まる |
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1791 |
トーマス・ペイン『人権論』 |
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1795 |
「救貧法」⇒機械打壊し運動 |
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1798 |
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1809 |
「奴隷貿易廃止法」 |
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1814 |
「蒸気機関」実用化 |
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1815 |
「穀物法」制定(安い輸入穀物からの地主保護法) |
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1817 |
ベンサム『功利論』、リカード『経済学および課税の原理』 |
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1819 |
スエズ運河開通 |
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1833 |
「工場法(児童労働と労働時間の規定)」⇒産業資本家の出現 |
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1845 |
「穀物法」廃止 |
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1848 |
J.S.ミル『経済学原理』 |
イギリスから世界の工場へと経済のグローバル化 |
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1858年 |
東インド会社解散 |
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1861 |
アメリカ南北戦争(1971年終戦) |
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1864 |
第一次インターナショナル結成(1889年には第二次インター結成) |
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1867 |
マルクス『資本論』 |
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1871 |
「労働組合法」(1894年に8時間労働法成立) |
古典経済学の行き詰まりと近代経済学の誕生 |
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1914年 |
第一次世界大戦(1918年終戦) |
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1917 |
ロシア革命 |
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1920 |
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1929 |
ウォール街で株価大暴落 |
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1933 |
ロンドンで「世界経済会議」 |
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1936 |
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1939 |
第二次世界大戦(1945年終戦) |
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1944 |
ブレトン・ウッズ会議 |
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1946 |
「社会保障法」 |
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1947 |
マーシャル・プラン発表 |
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1962 |
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1971 |
アメリカ ドル防衛策発表(ブレトン・ウッズ体制の崩壊) |
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1973 |
第一次石油危機 |
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1993 |
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1999 |
単一通貨「ユーロ」導入 |
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2008 |
2)経済学の系譜
◆『重農主義』と『重商主義』
『重農主義』は18世紀後半、フランスのケネーらの経済思想で、一国の富の源泉を農業生産のみに求めた。
ケネーは1758年に『経済表(現代の「産業連関表」に類似)』を作成し、『自由放任』を主張、A.スミスを通して『古典派経済学』に大きな影響を及ぼした。
一方、フランスの財務総監コルベール(1619~1683年)は税収増加のため『保護貿易政策』と『特権的な商工業者の育成』を採用、貿易・輸出の振興をはかった。これは『重商主義』と呼ばれる。
◆『古典派経済学』
スミス、マルサス、ミルに代表されるイギリスを中心に発展した経済思想で、『自由放任』『自由貿易』などを主張、『自由主義経済』とも呼ばれる。
◆『新古典派経済学』
19世紀から20世紀前半のマーシャルやワルラスによる経済思想で、サミュエルソンによって洗練されたものとなった。
自由主義的な経済観を『市場均衡』の理論的分析に結び付けたもので、個人の『合理的行動』と『均衡論的市場観』がその特徴である。
◆『新古典派総合』
サミュエルソンが一時とった経済思想で、ケインズの『有効需要政策』で『完全雇用』を達成すれば、あとは『市場の自動調整機能』で経済はうまく運営される、とした。
◆『マネタリズム』
フリードマンが中心になり唱えた経済思想で、『市場に絶対的な信頼』を置き、『貨幣供給量』と『インフレ率』には一定の相関があると考えた。
◆『古典派経済学』の終焉
『重農主義』、『重商主義』の経済思想は『古典派経済学』に統合された。しかし、理論的には『価値』を『交換価値』と考え、これを『貨幣尺度』で計測したに過ぎなかった。⇒『自然価格』の考え方
この考え方は、『安定性』、『永続性』を欠くものであった。これを解決するため『労働価値説(スミスやリカード等)』や『需要供給説(マルサス)』が考えられたが、周期的にッ発生する恐慌現象の説明や解決策を提示することはできなかった。そして、『財』と『貨幣』との統一的原理の必要性も認識されてきた。
さらなる問題点は、『資本主義的経済体制』が仮に安定的であるとしても、それは社会のすべての階級(ブルジョア、労働者、農民)にとって望ましい『分配』の理論が提示できなかったことである。特に、『地主階級』と『資本家階級』の対立に代わって、『資本家階級』と『労働者階級』の対立が激化。解決が急務となったが、これについても有効な解決策の提示ができなかった。
◆『近代経済学』
「非マルクス経済』の立場から、『資本主義経済』を理論的・数理的に分析しようとするもので、当初は一つにまとまったものではなかった。
1870年代に、ワルラス、ジェヴォンズ、メンガーにより『限界効用学説』を経済学に適用することから始まった。
<参考>『限界効用学説』
『財』の『価値』は、その『財』の最後の一単位を消費することで得られる『満足度(『限界効 用』)』の大きさで決まる、とする学説。⇒『価格』と『価値』の概念が分けられた。
『古典派経済学』の『労働価値説』を否定したが、『自由主義』は継承し、自由競争下の『価格』は『需給の均衡』で決まるとする『均衡理論』を形成した。
<参考>『労働価値説』
商品の『価値』は、その商品を生産するために投入された『労働』により規定される、とした。『古典派経済学』で樹立された理論で、スミス、リカードにより体系化され、マルクスによって完成された。
☛経済学史のABC②へつづく